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東京高等裁判所 昭和38年(う)2547号 判決 1964年3月11日

被告人

田沢武夫

外一名

主文

原判決を破棄する。

被告人田沢武夫を罰金一〇、〇〇〇円、被告人伊藤武を罰金三、〇〇〇円に処する。

右罰金を完納することができないときは金五〇〇円を一日に換算した期間、当該被告人を労役場に留置する。

公職選挙法(昭和三七年法律第一一二号による一部改正前のもの)第二五二条第一項により選挙権、被選挙権を有しない期間を、被告人田沢武夫については二年、被告人伊藤武については一年に、それぞれ短縮する。

原審における訴訟費用は被告人田沢武夫の負担とする。

理由

本件控訴の趣旨は、被告人両名の弁護人岩間幸平同富沢準二郎共同作成名義の控訴趣意書(但し第五点の四及び五を除く)に記載されたとおりであるからこれをここに引用する。

控訴趣意第一点及び第二点について。

所論は、原判決は、被告人両名が原判示参議院議員通常選挙に際し「全国区参議院議員候補者下条康麿先生ご当選を祈ります」と記載したポスターを各自数名の者に対して配布した事実を認定し、これを公職選挙法第二四三条第三号第一四二条第一項第二号の法定外選挙運動文書頒布の罪に該るものとして処断しているが(一)右ポスターは、当時、政治資金規正法第三条所定の団体(いわゆる政治団体)となるべきことを決議していた全国各種学校総連合会(以下全各総連と略称する。)の理事会が、かねて同選挙に際し、候補者として推薦することを決議していた右全各総連会長下条康麿が立候補の決意を有することを知り、右決議の趣旨を全各総連の組織内に周知徹底せしめるため全各総連事務局をして作成せしめた上、通常の方法により配布したものであつてその目的は政治資金規正法にいわゆる政治活動にあり、右下条康麿の当選を目的としたものではないから、同ポスターは、右公職選挙法第一四二条第一項にいわゆる選挙運動のために使用する文書には該当しないのみならず(二)被告人田沢武夫は全各総連の長野県支部に相当する長野県各種学校協会(長各連)会長として県内各地区支部長又はこれに準ずる者計六名の特定人に対し、被告人伊藤武は同県下伊那地区支部長(上伊那責任者)として会員たる五名の特定人に対し、それぞれこれを配布したのみであるからその所為は同法条にいわゆる「頒布」に該当せず、原判決がこれを法定外選挙運動文書頒布の罪に問うたのは、事実を誤認し又は法令の適用を誤つたものであるというにある。しかしながら公職選挙法第一四二条は選挙の公正をはかるため文書図画による選挙運動のうち頒布する文書に関し一定の制限を規定したものであつて、政治資金規正法第六条による届出前の団体又はその会員は勿論、その届出をした政治団体又はその会員であつてもその制限外にあるものではなく、たとえ、かかる組織体が推薦した候補者の氏名をその会員に周知させるための文書であつてもそれがいやしくも選挙運動の目的を兼ねたものと認められる以上は同条にいわゆる選挙運動のために使用する文書として方法の如何を問わず、同条所定の通常葉書のほかはこれを頒布することを許さないものと言わなければならない。

(その余の判決理由は省略する)(裁判長判事小林健治 判事遠藤吉彦 判事吉川由起夫)

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